わらじ

 秋田県皆瀬村は、秋田、岩手、宮城、山形の四県にまたがる栗駒国定公園のすそ野にある。山間高冷地で耕地は少なく、昔から山菜やキノコは地元の人たちにとって貴重な収入源となってきた。
 阿部重作さん(昭和20年生まれ)は若いころから山の幸を採ることを生業(なりわい)の一部としてきた山のプロ。今も農作業のかたわら、春のゼンマイから秋のキノコまで、山の幸を求めて一帯の山々を歩き続けている。今はスパイク付きの地下タビだが、25年ほど前まではワラジをはいて山を歩いていたという。

 「このワラジは20年ほど前に親父が作ったもの。自分でいうのもなんだども、親父のワラジは丈夫だった。よく山を歩いた人だったから、いろいろ工夫したもんだべ」とあべさん。
 このワラジは、民芸品店などで売られているものより分厚く、しかも固い。特に力のかかるツマ先部分や乳(ち・縄を通す丸い輪)には、古くなった野良着など木綿を細かく裂いた布が編み込まれている。

 「普通のワラジは一日でダメになったども、これは翌日の途中まで大丈夫。腰に予備のワラジをぶら下げておいて、切れたらその場で脱ぎ捨て、はき替えたもんだ」
 ワラも古着も最後まで大切に使う。そして最後には土になる。これぞ徹底したリサイクルである。



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