2003年5月  ●●● 美しい花を咲かせるのになぜか忌み嫌われるイワシ花 ●●●

イワシ花 桜の花が終わって間もなくすると、海沿い標高の低い山からイワシ花が咲き始める。正式名称はタニウツギだが、秋田ではやはりイワシ花が一般的。地域によってはガザ花、ガジャ花、ガザンとも呼ばれているようだ。
 この花には恥ずかしい思い出がある。それは20年近く前の5月中旬、東京から来たお客さんを案内した時のことだ。秋田市近郊の林道沿いに満開だったこの花の名前を聞かれれ、「イワシ花」と答えた。
 すると「おもしろい名前ねぇ。何でイワシなの?」と再度の質問。これに「イワシのように、どこにでもうじゃうじゃあるからだと思うんですけど…」と説明してしまった。後で調べてみたら、秋田の海でイワシが獲れる頃に咲くからイワシ花。なんともいいかげんな説明をしてしまったものだと反省した。
 ところでこのイワシ花、日当たりのいい場所に咲く美しい花なのに、秋田ではなぜか忌み嫌われているようだ。これを庭の植木にしようと友人に応援を頼んだところ、「やめれ、あれは仏さんの花っこだ。縁起の悪い花っこだがら屋敷内に植えるもんでねっ!!」とあきれられた。そういえば県内で庭木や生け垣にしているのを見かけたことはない。かといって仏壇に供えられているのも見たことがない。
 以来このことが気になり、各地の人たちに話を聞いてきた。場所は忘れたが「あの枝はなかなか燃えないので、お骨を拾う時のハシとして使ったもんだ」という人がいた。青森県のマタギは「お棺の中に入れる杖はこの枝で作る。ここではガジャシバって呼んでいる」と教えてくれた。山間部では若い葉を乾燥させ、飢きんの時の救荒食にしていたという話も聞いた。
 どんなに美しくても、この花を見ると、身内の死や飢きんの時の苦しさを思い出す。だから普段目の届くところに植えなかったのかもしれない。イワシ漁、葬式、飢きん。この花には、昔の人たちのさまざまな思いが染み込んでいるようだ。


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