2003年6月 ●●● 父さんが採り、母さんが干す ●●● |
5月中旬、小安峡温泉で知られる皆瀬村はゼンマイ採りの最盛期。同村の安部千代子さんは例年この季節は、ほぼ一日中ゼンマイ干しの作業にかかりっきりとなる。午後4時過ぎ、「なあーんと、重作さんだば別格だもの…」と近所の誰もが認める安部重作さん(59)がバイクで帰ってきた。 荷台にはゼンマイがまさに山盛り。夫婦で一緒に持ち上げなければバイクのスタンドも立たないほどだ。千代子さんは重作さんがいつ帰ってきても作業ができるように、かまどに薪をくべ、ドラム缶を利用した大きな釜に湯を沸かしている。大きな籠にゼンマイを入れ、熱湯に浸してからビニールシートに広げる。もうもうと湯気の立つゼンマイを両手でかき混ぜると、フク(綿)がおもしろいように取れる。 重作さんの採ってくるゼンマイは実に立派だ。秘密の場所でもあるのかと聞くと、「秘密でもなんでもねぇ。素人の人が入れねような、岩場の急斜面に行くだけだもの」と重作さんはさらりと言ってのける。こんな場所で採る時は、スパイク付きの地下タビの上に4本づめの金カンジキ(アイゼンのようなもの)をはき、さらに細いロープで体をささえながらの作業となる。 父さんが苦労して採ってきたゼンマイを質の良い干しゼンマイに仕上げるのが母さんの仕事だ。天気の良い日は朝早くからゼンマイを庭先に広げ丹念にもむ。「もめばもむだげ、やっこく(柔らかく)なるって、ばあさんに言われたもんだんす」と千代子さん。 ゴザの上には干し始めて1日目、2日目、3日目のゼンマイが分けて並べられている。「天気のいい日が3日も続けば仕上がるども、途中で雨が降れば大変。家の中に入れてストーブをたいたり扇風機を回したりして、なんとか仕上げるんす。お天気が続けばいいなぁ」 干し揚げたゼンマイは生の時の十分の一以下の重さになる。ちなみに皆瀬村では1キロ12,000円前後で取引されているとか。安部さん夫婦の仕事はほぼ5月いっぱい続く。 |
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