2004年2月  ●●● 見た目に似合わぬ優しい味。サメの刺身は冬が旬。 ●●●

稲架 首都圏に住む友人に「サメを刺身で食べる」と言ったら「えっ?」とびっくりされたが、冬の秋田ではそう珍しい食べ物ではない。サメの刺身は、しっかりした食感ながらとろっとした脂が浸み出してくる感じで、「マグロの刺身よりうめぇなぁー」という人もいる程だ。
 冬が旬のこのサメの種類はアブラツノザメで、体長は平均して1m前後と小さい。しかし、いかにもサメらしい凶暴そうな顔をしており、エメラルドグリーンの目が印象的だ。かつては魚屋の店頭からハタハタがなくなると、代わって並べられるのがこのサメだった。店先の雪の上に、皮をむかれたサメが何本も並べられた様を今でもしっかり覚えている。
 1月中旬、水揚げされたばかりのサメを下ろして見せてくれたのは、仁賀保町平沢(にかほまちひらさわ)の伊藤ヒデさん。伊藤さんのお宅は底引き漁船の船主で、息子の重之さんは船長。出漁した日は自家用の魚を持ち帰る。この日はサメが大漁だった。
 「私だば普段は田んぼや畑に出てるもんだがら、魚の料理は下手だもの…」とヒデさんは謙そんするが、慣れた手つきでサメの皮をむいていく。ボクも2〜3回サメを下ろしたことがあるが、どうしても上手に皮をむくことができなかった。さすがヒデさんは浜の女。短時間で上手に刺身を造り上げた。
 「私だば造らねども『べっこう』をこしぇる(造る)人もいるよ」とヒデさんが教えてくれた。これは刺身を造った後に残る頭と中骨を湯がき、骨に付いている身を手でこそぎ落とすようにして集め、四角い容器に入れて固めるというもの。「食べる時は適当な大きさに切って、酢味噌をつけてな。これもおいしいもんだよ」。サメに限らず1匹の魚を無駄なく料理してきた昔の人たちの知恵にはほとほと感心させられる。
 最近は街の魚屋さんが少なくなり、魚はスーパーなどで売られている切り身のパック詰めが主流。自宅の台所で魚を下ろせる人も、めっきり少なくなってしまった。


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