2003年8月  ●●● 優しい気持ちが込められた 仏さんを送り迎えする盆馬 ●●●

盆馬 年に一度、あの世へ旅立った霊が帰ってくるとされる「お盆」。迎え火、送り火、精霊流し、盆踊りなど地域によって行事や風習はさまざまだが、いずれも肉親や祖先の霊に対するいたわりや深い感謝の気持ちが感じられる。
 馬のたずなを持つ馬引きまで組み入れた華やかな盆馬が見られるのは、象潟町(きさかたまち)を中心にした由利地方。それも新盆を迎える曹洞宗の檀家に限られているようだ。象潟町には盆馬を作る人が数人いるが、金チセさん(78)もその一人だ。
 「ここの家のおじいさんが山形の庄内から婿になってきて、この商売を始めたそうです。私は嫁に来てから見よう見まねで作り始めたから、もう60年にもなるなぁ。『仕事は見て覚えるもんだ』って言われ、『ああしろ、こうしろ』って教えてもらったことはないすなぁ」とチセさんは言う。
 「ガヅキ(マコモ)の馬は町内の農家の方が作ってくれてます。ガヅキは年々採れる場所が少なくなっているし、刈ってから一年ほど乾燥させてから編む。この方の仕事は大変ですよ」  ここから先がチセさんの仕事になる。色紙を切り出したり、馬の背に乗せる座ぶとんを縫うなど、冬場に済ませておかなければならない仕事もけっこう多いという。
 「うちのおばあちゃん、『これは仏さんが乗って来るものなんだがら、粗末なものは作られね!』って仕事がとっても丁寧だものねぇ。細かい針仕事も眼鏡なしでするし、本当に大したもんです」とお嫁さんも感心する。
 現在チセさんが作っているのは、地元象潟の人から頼まれたものと、山形県庄内地方の業者に送るものの二種類。馬の背に乗せる座布団の数など、細かい個所は微妙に異なる。
 盆馬は8月12日、玄関や仏壇の方を向かせるように軒先や家の中に吊す。そして仏さんが帰るとされる15日には外へと向きが変えられるという。盆馬をじっと見ていたら、作る人、そしてそれを吊す人の優しさが伝わってきた。



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